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成果連動型委託契約導入のためのチェックリスト

~成果連動型支払とソーシャル・インパクト・ボンド~

2018年6月8日

 課題先進国と言われるわが国では、少子高齢化問題、貧困層の拡大など多くの社会課題を抱えている。一方で、行政の社会保障費の増大、社会課題に対する革新的なアプローチの欠如、事業者への資金負担などの課題があり、これらの課題への対応策として、近年、成果連動型委託契約の手法の一つであるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)が注目を集めており、さまざま行政機関や事業者によって検討されている。

 本コラムでは、SIBを含む成果連動型委託契約の導入を検討している行政関係者や事業者向けに、その概要や導入の効果、導入にあたっての検討事項について述べる。また、導入を検討する際のポイントをチェックリストとして整理しており、ぜひ活用いただきたい。

成果連動型委託契約について

成果連動型委託契約
 成果連動型委託契約とは、以下2つ「1.成果連動型支払」及び「2.SIB」の総称である。その違いは、行政と事業者のみで完結し外部の民間資金を活用しないスキームが「1.成果連動型支払」、行政と事業者に加え外部の民間資金を活用するスキームが「2.SIB」となり、いずれも官民連携の手法である。

  1. 成果連動型支払
     成果連動型支払とは、行政の民間委託契約について、定められた業務を履行するだけで固定の契約額が支払われる従来の固定型契約とは異なり、業務を履行した結果、予め合意した成果目標の達成度合いに応じて支払額が変わる契約となる。行政は、業務内容を詳細に定めて民間委託するのではなく、業務内容は詳細に定めずに成果目標を定めることで、業務内容は事業者の創意工夫を最大限に活かせ、より成果向上が見込める。
     また、成果に応じた支払の方法について、「総額全てを成果に応じて支払う」、「一部固定、一部を成果に応じて支払う」、「通常の固定型契約に加え、成果目標を達成した場合ボーナスを支払う」等いくつかの方法があり、状況に応じて適切な方法を選択する。
     
  2. ソーシャル・インパクト・ボンド(Social Impact Bond:SIB)
     SIBとは、「1.成果連動型支払」と民間資金の活用を組み合わせた手法の一つである。成果連動型支払では、事業者が提供するサービスの成果に応じて、行政が報酬を支払う。一般的にサービスの成果は、サービス提供してすぐに出るものではなく、一定期間経過後(通常数年)に測定できるようになる場合が多く、行政がサービスの成果を測定し、報酬を支払うまでに数年かかってしまうことになる。しかし、事業者によっては、十分な資金的余裕がないことも多く、支払いが数年後になるような支払契約への対応は困難であり、資金的余裕がある場合でも事業規模が大きい場合はやはり自己資金等では対応が困難となることがある。
     そこで、行政と事業者の成果連動型支払契約に基づいて、事業者のサービス提供費用等について、外部の民間資金提供者から資金調達を行い、行政と事前に合意した成果目標を達成できれば、後から行政が資金提供者へ成果に応じて報酬を支払うという仕組みが開発され、これがSIBと呼ばれている。
     2010年に英国で導入が始まったSIBは、2017年に日本でも東京都八王子市でがん検診受診勧奨、兵庫県神戸市で糖尿病重症化予防の分野で導入された。
    ※「日本初のSIB導入事例「八王子市」及び「神戸市」の共通点・相違点と課題

成果連動型支払とSIB導入によって期待される効果

 成果連動型支払とSIBを導入することにより、成果連動と民間資金の導入という観点から主に以下の効果が期待される。

1. 行政との成果連動型支払導入の効果

  1. 成果にフォーカスした取組が生み出す関係者間の協力体制
  2. 事業者とリスクを分担することで、行政のフレキシブルな事業者の選定
  3. 適切なインセンティブを事業者に与えることで革新的な手法の創出
  4. 関係者の視点を中長期的にし、治療的政策から予防的政策への移行

2. 外部の民間資金導入の効果 ※1.と組み合わせることでSIBとなる

  1. 事業者の資金的なリスク分担および負担の軽減による事業のスケール化
  2. 民間投資家が事業をモニタリングすることで資金効率を考えた事業運営の改善
  3. 参加者への民間投資家が持つ知見の共有

 これらの効果については、全てが検証されているわけではなく今後発生することが期待される効果も含まれる。特に、外部の民間資金導入の効果に関してはまだ事例が少なく、今後事例を通じて検証していくことが重要である。上記のような効果は事業者からのより質の高いサービスの提供につながり、長期的には予防的政策に移行できることで課題を未然に防ぎ、将来的な行政サービスの質の向上につながることが期待されている。

今後、成果連動型委託契約が果たす役割と導入にあたっての検討事項

 成果を出すためのエビデンスが既に充実しており、地域や事業者に関わらずサービス内容を仕様書で定めれば、一定の成果が見込める場合は従来の固定報酬型委託契約が適している。 一方、地域によって成果にバラツキがある、または、事業者によって成果にバラツキがある等成果を出すためのエビデンスが十分ではない場合、仕様書で成果を出すためのサービス内容を定義するのは、非効率なサービスが定着してしまう恐れがある。そのため、サービス内容は事業者が提案し、仕様書ではサービス内容ではなく成果指標等による制約を設けることで、事業者が成果を出すための工夫や改善を行いながら、より成果を出すためのエビデンスを蓄積することが重要である。つまり、成果を出すためのエビデンスが十分ではない領域については成果連動型委託契約を導入し、生み出される成果を測定し、エビデンスの蓄積とその活用による事業改善プロセスを進めることで、長期的に成果を高めていくことが可能となる。

 今後さまざまな領域で成果連動型委託契約導入の検討を行うことが予想される一方、成果連動型委託契約導入には多様な観点から導入の効果を検証することが重要である。特に、事業の対象者と成果の明確化、エビデンスに基づいた事業、その成果に対する行政の支払いの意向に関しては、事業の実行可能性への影響度が大きく、検討初期段階で確認しておくことが望ましい。

成果連動型委託契約の検討ステップ

  • ステップ1(検討初期段階)
    特に重要な項目について、回答案を検討し、その整合性を含めて大きな問題がないか確認する。ステップ1は必須ではないが、5つの項目のうち回答が困難と考えられる項目がある場合、実現可能性が低く、ステップ2で本格的な検討を行っても徒労に終わる可能性がある。なお、ステップ1は全ての項目で明確な答えを求めるものではなく、検討の基礎となる骨格を粗削りながら整理することが目的であり、時間をかけて詳細を検討するものではない。ある程度可能性があると判断できれば、ステップ2へ進み、より詳細な検討を行うことが望ましい。
     
  • ステップ2(本格検討段階)
    全ての検討項目について、詳細に検討し、主要な関係者と合意形成を図る。多くの項目が関連しており、1つの項目が変わると他の項目も変わることもあり、何度も検討を繰り返して合意形成を進めることになる。

ステップ1(検討初期段階):特に重要な項目の確認

  1.  サービスを提供する対象者が明確か
    サービスの対象者がどのような属性(年齢、性別、地域、対象制度、特徴等)で、どの程度の人数規模かを明確にする。(例:A市における国民健康保険対象者で40歳以上74歳未満の方10万人 等)
  2. 主な成果が明確で現状から改善が見込めるか
    サービスの対象者が現在受けている他のサービス(行政サービスや民間サービス)と解決すべき課題がどのようなもので、どのような成果(サービス提供の結果、生じる変化)を目指すのか。また、提供するサービスが他のサービスより高い成果が見込めることが説明できるか。主な成果について、現状からの改善が見込めない場合、実施する意義がないことになる。
  3. サービス提供と成果の因果関係があるか
    提供するサービスと主な成果の因果関係について、研究結果や実績等により説明できるか。因果関係が不明な場合、サービスを提供してもそもそも目指す成果が得られない恐れがある。
  4. 一定のエビデンスを有した事業者が存在するか
    現状サービスより高い成果が見込めることをエビデンス(他の地域での実績や研究結果など)に基づいて説明できる事業者候補が存在するか。エビデンスを有した事業者候補が存在しない場合、適切な成果目標や支払条件の設定が困難となる恐れがある。なお、エビデンスは、システマティック・レビューやランダム化比較試験(RCT)等の高いエビデンスレベルは必ずしも求められない。
  5. サービス提供により生み出される成果に対して行政は支払いを行うか
    成果は、行政が税金を投入してでも優先して解決したい課題で、かつ、これまでの税金の使い方より効果的(現状の成果単価より単価を下げられるか/サービス提供により対象者にかかる行政コストが低減、または、将来発生する行政コストを抑制できるか等)と考えられるか。

ステップ2(本格検討段階):全ての項目の詳細な確認

 成果連動型委託契約導入にあたってチェックすべきポイントを成果連動型委託契約チェックリストに検討フェーズごとに整理した。導入を検討されている行政関係者や事業者は是非活用いただきたい。

成果連動型委託契約チェックリスト

※ダウンロードできない方は以下のお問い合わせ先よりごお問い合わせください

 検討にあたっては、これらの項目を様々な関係者と調整しながら進める必要がある。弊社はこれらの企画・検討から、関係者のコーディネートや合意形成までの全てを推進する中間支援組織であり、日本初のSIB導入実績に紐づく現場のノウハウ、中央省庁や全国の地方自治体で数十以上の検討を進めている知見やグローバルの最新動向等を踏まえた支援を行っている。本チェックリストはそのエッセンスを集約したものである。行政関係者が具体的に検討を進める中で感じる疑問や困難は、他の自治体では既に解決されている例も多く、成果連動型委託契約を検討する行政関係者は、疑問や依頼などがある場合、以下の「本件に関するお問い合わせ先」より問合せいただきたい。

(ケイスリー株式会社 田淵 良敬)

【本件に関するお問い合わせ先】

  • 会社名:ケイスリー株式会社

  • 担当者名:幸地 正樹

  • メールアドレス:contact@k-three.org