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ソーシャル・インパクト・ボンド
の意義とは

2017年7月26日

ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)とは

 Social impact bonds (SIBs) とは、行政、事業者、民間資金提供者等多様な関係者が連携して社会課題解決に取り組む新しい手法です。特にサービスを提供しただけではなく、社会課題が解決されたかどうかを第三者が評価し、その評価に連動して支払いが行われることが大きな特徴です。成果を可視化しその成果に応じた支払が行われることで、行政サービスの質を高められること、また市民に対してより透明性の高い説明責任を果たすツールの一つ  としての大きな可能性があると考えられます。

 SIBでは具体的に、サービス提供者の事業実施 を通して、あらかじめ合意した成果が達成されて初めて、支払いが行われます 。また、その際支払われるまでの間、費用は 民間資金提供者から調達されます。言い換えると、成果が達成されなかった場合のリスクは行政ではなく、民間資金提供者がとる仕組みです。委託契約が決まれば成果に関わらず支払われる従来の固定報酬型業務委託契約とは異なり、より評価の質、事業の質が高まる契約形態です。
 一方で、SIBの案件組成では、通常の固定報酬型業務委託契約では発生しない評価費用や組成費用などの追加の費用負担が発生します(設計次第では費用負担を下げることもできますが)。多様な意義のあるSIBですが、行政機関の視点から考えると、「追加の費用を支払ったとしてもより成果の高い 」というポイントが重要だと考えられます。

行政におけるソーシャル・インパクト・ボンドの位置付けと主な特徴

 これを論じるためには、まず「成果連動型支払契約」という枠組みからだけではなく、行政サービス実施に対する評価導入の有無も含めて一度整理して考える必要があります。下図のように評価導入の有無と成果連動型支払の有無 の2軸で分けて考えると、大きく4パターンに分類できます。ここでいう評価導入の有無とは、行政機関が委託事業に対して成果を可視化し、成果連動型支払の有無は、その可視化された成果に応じて支払いを行うことを示します。
 ここにおいて、SIBは、成果連動型支払のうち民間資金提供者を巻き込むものとして分類されます。

 行政機関がある公共事業を実施する場合に、取りうる選択肢と主な特徴については下図のように整理されます。ここで述べたいのは、一般的な固定報酬型業務委託(評価導入無)は、あくまで「既に効果があると証明された事業」 、つまり、「どの地域で実施しても、どの事業者が実施しても、仕様で定められたサービスを提供すると一定の成果が見込みるという十分なエビデンスが示された事業」に対して適応すべき選択肢だということです。エビデンスに基づいた政策実行を行うEvidence-Based Policyの導入が先進国を中心に急速に広まっていますが、日本では導入はほとんど見られません。SIBの導入は、行政機関や民間事業者のリスクを低減しながら「成果に基づいた政策執行」を加速することができる有効な手段と考えられます。特に革新性が高く、長期間・大規模事業といった事業者が資金を一括して担えない場合において、より評価と事業の質を高められる可能性があると言えるでしょう。②の事業評価を含めた固定報酬型 での事業実施と比較すると、支払が関与することによる評価・事業の質の向上といったメリットが考えられ、成果連動型(民間資金活用無)と比較すると、さらに資金提供者が関係者として加わることによる評価・事業の質の向上といった利点が考えられます。 

ソーシャル・インパクト・ボンドの活用意義と出口戦略

 こうしてSIBを活用して行政サービスを進めていくことは将来的にどのような意味をもたらすのでしょうか?それは、資金的なリスクを抑制しながら、成果が見込めるサービスのエビデンスや知見を蓄積し、その後長期的に質の高いサービスを効率的に提供することができるということです。逆に言えば、SIBによる成果連動型の実証実験を経ずに固定報酬型業務委託を実施することには次のような課題があることが想定されます。一つは、成果が見込める十分なエビデンスや知見がないまま、非効率・効果的ではないサービスを行政が仕様で定め、サービス提供者の創意工夫を最大限引き出すような業務を実現できず、非効率・効果的でないサービス手法が定着してしまうこと。もう一つは、リスクを許容できる民間資金ではなく税金を用いることで、 サービスの質や効率よりも資金の使い道に対する説明責任が重視されることになるため、イノベーションが起きにくいといったことです。
 成果が明らかとなれば、未来永劫SIBという形式をとり続けるのではなく、固定報酬型業務委託の形態に切り替えること、成果の見込めるサービスを仕組み化すること(行政サービスに制度として組み込む)等が出口戦略として考えられます。 現状の行政サービスの考え方は「固定報酬型業務委託契約」から始まることがほとんどですが、まずは「成果報酬型契約」から始め、成果が可視化されて初めて、「固定報酬型業務委託」に切り替えていく、という発想の転換が必要だと思います。

 SIBは官民連携で行政サービスをよりよく変える仕組みです。市民の生活の質をより高めるために、まずは成果連動型契約・SIBから行政サービスの実施を始める、ということが、日本の「予算消化型」の事業に一石を投じる手段だと考えます。

ケイスリー株式会社 落合 千華)