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ソーシャル・インパクト・ボンド導入プロセスを学べる公開講座(第1回・第2回)実施レポート

~琉球大学「社会的インパクト投資基礎概論(全8回)」~

2017年9月15日

8月23日、琉球大学とケイスリー株式会社による「社会的インパクト投資基礎概論」の第1回が開催された。主にソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の導入プロセスを実践的に学ぶ日本初の大学による公開講座(全8回36時間)である。

これまでSIB関連セミナー等でSIB概要や国内外の最新動向等は報告してきたが、日本で具体的なSIB導入プロセスを実践的に学べる機会はなく、今回、体系的にSIB導入プロセスを共有する初の試みとなる。日本初のSIB導入に加え、中央省庁や全国の地方自治体と多数のSIB導入を検討してきた経験を整理し、日本の事情を考慮したSIB導入の課題やポイントを共有したい。

プログラム概要は以下の通り。講師は、宮里大八氏(琉球大学地域連携推進機構特命准教授)及び幸地正樹氏(ケイスリー株式会社代表取締役)である。

プログラム概要

  • 第1回 8月23日(水)10:00~17:00
    ・沖縄の現状
    ・社会的インパクト投資の潮流
    ・ソーシャル・インパクト・ボンド概要と国内外の動向
  • 第2回 8月24日(木)10:00~17:00
    ・社会的課題の設定とチームビルディング
    ・ソーシャル・インパクト・ボンド導入プロセスとワークショップ
    ・今後の進め方
  • 第3回 9月20日(水)10:00~17:00
    ・取組計画の検討
    ・社会的インパクト評価概要と評価設計ワークショップ
  • 第4回 9月21日(木)10:00~14:00
    ・ソーシャル・インパクト・ボンド導入可能性調査
  • 第5回 9月21日(木)14:00~17:00
    ・ソーシャル・インパクト・ボンド導入可能性調査(関係者との合意形成ワークショップ)
  • 第6回 10月18日(水)10:00~17:00
    ・ソーシャル・インパクト・ボンド導入可能性調査(関係者との合意形成ワークショップ)
  • 第7回 10月19日(木)10:00~14:00
    ・プレゼンテーション準備
  • 第8回 10月19日(木)14:00~17:00
    ・プレゼンテーション

第1回・第2回の実施レポート

第1回は主に講義形式で、沖縄の現状、社会的インパクト投資の潮流、ソーシャル・インパクト・ボンド概要と国内外の動向を説明した。

「社会的インパクト投資の潮流」では、冒頭にその概念を共有した。社会的インパクト投資は、グローバルで統一された定義はなく、事業者、国、立場などによっても少しずつ異なる。

個人的には、従来の投資から寄付までの全てはシームレスに繋がっており、社会的インパクト投資は社会全体の社会的リターンを最大化していくための手法だと理解している。財務的リターンは元本回収できれば社会的リターンを測定できればよい等、財務的リターンは市場より少なくとも許容できる人もいれば、社会的リターンを測定し財務的リターンも市場と同等以上を求める人もいる。いずれも社会的インパクト投資である。一方、規模の観点で見た場合、圧倒的に従来の投資が大きく、そこを少しでも社会的リターンを意図する方向にシフトすることが社会全体のインパクト最大化には必要である。
 

SSIR(Stanford Social Innovation Review)の最近の記事「Marginalized Returns」では、社会的インパクトと経済的インパクトの両立は単なる詭弁であり、主に経済的インパクトが優先され、社会的インパクトが後回しとなり、社会的インパクト投資という言葉が体よくつかわれてるのではないか、という論調で大きな話題となった。これは、社会的インパクト投資の定義の曖昧さに起因することかと思われる。もちろん、社会的リターンを優先する方が望ましいと思うが、全ての人が社会的リターンを優先することは現実的ではなく、財務的リターンを優先する人がいてもよいし、社会的インパクト投資だと言葉を体よく使われてもよい。事実、アメリカでは社会的リターンを優先する資金提供者と財務的リターンを優先する投資家の組み合わせにより、従来よりも規模拡大を実現している案件も多い。言葉の定義論争に時間を費やすのではなく、重要なのはトータルで本当に社会へのインパクトを生み出しているかである。グローバルでも社会的インパクト投資自体まだ過渡期にあるのだ。

社会的インパクト投資(Impact Investment)という言葉が具体的に使われ始めたのは、2007年にロックフェラー財団が開催した会議といわれている。もちろん、いきなり出てきたものではなく、その20年前の時代より大きな流れがある中で必要とされて出てきた手法である。

講座では、これらの社会インパクト投資の生まれた背景から国内外の最新動向までをインプットした後、ソーシャル・インパクト・ボンドの概要や日本初のSIB導入事例を含む国内外の最新動向を共有し、第1回の講座を終えた。

第2回は、参加者が関心を持つ社会的課題から投票により4つのテーマに絞り、テーマ別にチーム編成し、マシュマロチャレンジを用いたチームビルディングを行った。参加者は、離島や県外からの参加者を含む行政関係者、民間企業、NPO、大学関係者等がおり、チーム内において多様な観点で議論できるバランスの良い構成となった。今後、各チームで設定されたテーマに関するSIB導入可能性を検討する。

チーム編成後、SIB導入プロセスと導入のポイントを日本でのSIB導入事例に基づいて共有し、チーム別に設定されたテーマに関するSIB導入検討グループワークを行った。実際に各自が自分で考えてみると、検討すべき事項や必要な情報などが多いこともわかり、やるべきことや難しさも体感できる。いきなり答えが出るものではないため、まずはやってみて、改善を繰り返しながら徐々に形を作っていき、最終的には関係者に向けてSIB導入を提案できるようになることを目指す。

SIBの導入には、社会課題のデータに基づく分析や課題解決方法、行政・事業者・資金提供者等異なる考えを持つマルチセクター間での合意形成、社会的インパクトの評価手法及びファイナンススキームの理解などが求められる。プログラムを通してこれらを学ぶことは、SIBに限らず多くの社会課題解決にも適用することができ、地域の社会課題解決を促進する人材の育成にも繋がる。初めて聞く言葉も多く難しいこともあると思うが、悩みながら走りぬき、是非、これらのスキルを身に付け、地域で実践していくことを期待する。

(文:ケイスリー株式会社 幸地正樹)