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イベントレポート(配付資料付)

経済産業省主催「ソーシャル・インパクト・ボンド導入モデル事業報告会」

~社会課題解決に向け‟行政を成果志向に変える”
ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)とは~

· イベント,ソーシャルインパクトボンド,資料公開

※配付資料一式は最下部

 平成29年2月13日(月)に、経済産業省の主催で平成28年度健康寿命延伸産業創出推進事業「ソーシャル・インパクト・ボンド導入モデル事業報告会」が行われた。本レポートは事務局を務める弊社が当該報告会をまとめたものである。全体で157名(うち行政20%、金融15%、大学10%、コンサル10%、その他団体45%)が参加し、報告会後半でも質疑応答が活発になされた。

 

 経済産業省では、平成27年度よりソーシャル・インパクト・ボンド(以下SIB)の検討を進めており、実証事業や検討会の実施を通して「日本版ヘルスケアソーシャル・インパクト・ボンドの基本的な考え方」が発行されている。平成28年度事業では、平成27年度からSIBの検討実績のあるケイスリー株式会社および公益財団法人日本財団が中心となり、複数の自治体と具体的な案件形成を進める形で実施され、平成29年度より「成果連動型かつ複数年度契約による日本初の本格的なSIB」が複数自治体において導入される見込みである。

不透明な成果・硬直度の高い行政予算に革新をもたらすSIB

 初めに経済産業省ヘルスケア産業課長の江崎氏から、SIBの概要、背景と意義に関する説明が行われた。冒頭であったのは、「SIBとは社会にインパクトを与えるお金の仕組みである」という言葉。その言葉には2つの要素が隠されている。1つは、サービスの質と規模の両立、もう1つは膠着しがちな行政予算の仕組みの変革である。特に社会的コストが肥大化し国家予算を逼迫する「待ったなし」のヘルスケア産業領域で、うまくSIBを活用すれば、より速く、より効率的・効果的なサービスを提供すできる可能性がある。

 

 SIBとは、「民間資金を活用した官民連携の成果連動型支払」である。ある領域の民間サービスに対し、あらかじめ可視化する成果を合意し、目標値を決める。成果達成までの間、行政から民間事業者に対しての支払いはなく、民間事業者の事業資金は「民間からの資金提供」によって調達される。事前に合意した成果達成時には契約に基づき、行政から資金提供者に対して支払いが行われる。

 一見複雑に見えるこの仕組みだが、特定の領域においては先に述べた2つの要素で非常に革新的である。

 1つ目の「サービスの質と規模の両立」については、社会課題解決に取り組む行政にとっても民間事業者にとってもメリットとなることであり、成果の可視化と民間資金を活用する成果連動型支払によって実現可能となる。

 

 2つ目のSIBの革新的な点は「硬直度の高い行政予算の仕組みの変革」である。自治体の予算のうち、人件費や社会保障費等固定化された支出割合は92.5%を占め、自治体の意思を反映できる支出は7.5%のみである。よって、自治体の予算の性質上、社会課題解決に向けて新しいことに取り組むことが難しい。SIBを導入し、成果の可視化+将来的なコスト削減分の可視化を行えば、既存の予算枠にとらわれず、高いアカウンタビリティ(説明責任)をもって新しい予算化へのチャレンジができる。資金提供者への利益を含めても行政に便益のある設計を基本とするが、支払においてリターン獲得の優先度・リスクの取り手を優先劣後で設計することも可能であり、行政にとってリスクの低い(つまり失敗した場合のリスクは資金提供者が担うような)設計も可能である。これはSIBの一つの特徴でもあり、リスク許容度の異なる資金提供者(機関投資家、個人投資家、篤志家、クラウドファンディングの利用等)を組み合わせることで、多様なリスク設計を行うことができる。

 SIBは具体的にどのような場合に自治体が採用すべき仕組みなのか。自治体が公共事業Aを実施する際にSIBの仕組みを取り入れる場合を考えてみる。まず民間事業者に委託することにより、同じ予算でより効率的な事業を実施できる可能性がある。一方で、質が可視化されていない場合、コストの低い方が採用される場合もあり、「安かろう・悪かろう」と呼ばれるような事態を招くことも考えられる。そこで次の段階で考えられるのが、成果を可視化して支払う成果報酬型である。この場合、サービス提供方法の工夫等により、より効率的・効果的なサービスを提供する可能性がある一方、民間事業者が資金のリスクを担うことになるため、一部の民間事業者の参入が困難となる等、規模や期間が限定されるデメリットもある。成果連動型支払のスキームにさらに民間資金提供者を巻き込むことで、民間事業者のリスクを軽減し、さらに規模を拡大できる可能性が生まれる。PFIも民間資金活用の一つの形ではあるが、PFIはハード(施設等)面、SIBはソフト(サービス等)面という違いがある。

 

 民間資金の活用と成果の可視化により行政および民間事業者の資金的リスクを低減し、より効果的・効率的な事業を社会課題解決のために提供していく。SIBは、公共事業の実施において、新たに自治体が検討・チャレンジすべきスキームといえる。

ヘルスケア産業領域におけるSIBの活用

 SIB導入の意義について前段で述べたが、SIBは「魔法の杖」ではない(と、本報告会の中で江崎氏も述べている:質疑4への回答)。各関係者にとってもメリットがあるスキームではあるが、全ての社会課題・社会課題に向かう事業に対して適用可能なスキームであるわけではない。また、誤解がないよう念を押したいのは、現実的に自治体のキャッシュが増える仕組みでもないということである。あくまでシミュレーション上、将来的なコストが削減されること等を可視化する仕組みである。

 

 どのような領域にSIBが活用できるのか。それは、意義で述べたことと背と腹の関係ともいえるが、下記の4点が考慮された事業・領域が適当であると説明できる。

  1. 民間事業者の方が効率的に実施でき行政と協働し長期および/または大規模の対象者に対してサービスを提供することで社会課題解決が最大化する事業・領域
  2. 成果の可視化ができコスト削減が見積もり可能/しても摩擦が生じない事業・領域
  3. 社会的便益創出効果に関して不確定要素が多く、自治体の既存資金での予算化が困難な事業・領域
  4. 民間事業者の自己資金による実施が難しい事業・領域

 つまり、上記以外の場合には、図4のその他の公共事業実施方法か、単純に民間サービスとして実施される方が効果的または低コストとなる場合がある。例えば、行政や民間事業者がある程度のリスクを取れるサービス内容や規模であれば、民間資金提供者を巻き込む必要はない。

 本事業で検討したヘルスケア産業領域に関しては、上記のような条件を満たすような事業がいくつか想定できる。実際にA市およびB市が本格導入を見込む事業は、大腸がん検診受診率向上および糖尿病性腎症重症化予防の領域である。ヘルスケア産業領域でのSIB導入は、将来的なコストの削減および国民のQOLに直結する成果の可視化という2つの観点から非常に意義が高いと言える。

 

 日本は少子高齢化を迎え、社会保障給付費は2016年度には118兆円を上回る水準となっており、国民医療費や介護保険給付費は単調増加の予測となっている。個人でみると70歳以上を超えてから医療費が膨らむ傾向にある。健康寿命の延伸(つまり医療費介護費の抑制)と国民のQOL向上のために、年齢と共に指数関数的に増大する医療費を、予防や早期診断・早期治療によって抑制することが重要である。繰り返しになるが、SIBはこういった予防的サービスに適したスキームであり、つまり、行政が予算化できないからといって予防サービスを実施しない・後回しにするのではなく、民間資金の活用と成果の可視化を導入することで、予防的サービスを実施することが可能となるのである。 

日本国内で期待の高まるSIB

 SIBは元々イギリスで第一号案件が成立し、現在は欧州を中心に世界で16か国60件以上の案件が組成されている。案件数および累積投資額は小規模ではあるものの、2010年から急激に成長している。日本でも、経済産業省や厚生労働省による検討会やモデル事業の実施、日本財団が実施するパイロット事業等が行われており、ヘルスケア産業領域だけではなく、児童養護や若者就労支援分野など十数件の案件の検討が進んでいる。「既に約30件組成されているイギリスでは政府の後押しが強く進んでいる部分もあるため、経済産業省としても後押ししていきたい」という江崎氏の力強い言葉もあった。成果連動型支払にすることで、「結果をごまかさない」SIBは、行政、民間事業者、資金提供者、サービス対象者を含めた各関係者にとってメリットが働く仕組みであるといえる。日本でのSIB導入および浸透に強く期待したい。

平成29年度SIB本格導入予定事業の紹介

 平成28年度事業では、SIBの導入を目指して複数の自治体と具体的な案件形成を進める形で実施された。事業の成果として、2つの自治体で平成29年度にSIBの本格導入が予定されている。SIB概要の説明に続き、①A市における大腸がん検診受診率向上事業および②B市における糖尿病性腎症重症化予防事業について、それぞれ①をケイスリー株式会社の幸地氏、②を公益財団法人日本財団の藤田氏より説明があった。両氏は、それぞれの案件で中間支援組織の役割を担い、案件組成を主導する立場で関わっている。

 ①A市における大腸がん検診受診率向上SIB

 大腸がんは早期発見によりほぼ治療が可能な一方、早期発見に効果的な検診の受診率が低く早期発見できないことが課題である。民間事業者の提供する受診勧奨プログラムにより、大腸がんの早期発見者数の増加、市民のがんによる死亡の減少が事業の目指す成果である。

 

 A市は元々、がん対策で全国的にも先進的な取組みを実施しており、受診率向上に既に実績のある既存手法ではなく、日本初となる手法にSIBのスキームを導入する。新規サービスは、個人の問診票や過去の受診歴等をふまえて大腸がんリスクを把握し、AI等の活用で一人ひとりに最も効果的にフルオーダーメードで受診勧奨をするサービスである。事業期間は全体で3年間であり、プログラム実施期間が1年間、評価実施期間が2年間である。本事業では、支払条件も含めアウトカム指標として、1年後にがん検診受診率、2年後に精密検査受診率及び早期がん発見数を測定する。A市が直接民間事業者と契約し、民間事業者が資金提供者から事業資金を調達、最終的な成果の評価は委員会を設置して対応する方向で検討している。

期待される便益は、例えば1,000万円の事業費で11人の早期がん患者を発見し、1,700万円の医療費適正化効果となるイメージである。このシミュレーションはA市のレセプトデータ分析結果に基づいて行われ、ここからA市の支払額を決定する。1年後にがん検診受診率が向上すればまず250万円、2年後に精密検査受診率および早期がん発見数が成果目標(基準値)を達成すればさらに650万円、最大の成果目標達成で750万円(合計で1,000万円)が支払われる仕組みとなっている。その後の医療費はアウトカム指標として設定していないが、実際にはリアルデータを継続して取得していく予定である。

 ②B市における糖尿病性腎症重症化予防SIB

 腎症重症化は、第1期~第2期は医療費や体への負担も低い一方、第5期になれば人工透析が必要となり、年間約500万円の医療費や1回4時間程度の透析治療が週3日程度必要となる。人工透析へ移行する年齢は70歳程度といわれ、患者数は増大している。人工透析となる要因は糖尿病性腎症が最も多く、糖尿病性腎症を早期介入して予防することは医療費の削減および対象者のQOLの向上にとって重要性が高い。

 

 B市では、保健師による1対1の保健指導で生活習慣を丁寧に変えるサービスを想定している。SIBのスキームの中では、面談や電話を組み合わせた6か月のプログラムを実施し、生活習慣の改善者数とステージ進行/人工透析移行予防数を成果指標として評価する。最終的な成果指標は2年後の測定であり、B市が債務負担行為で支払う形となる。

期待される便益として、2,900万の投資額に対し8人の人工透析予防数で医療費適正化効果は1.1億円となる。平成29年度に最低保証額(事業費の40%)と生活習慣改善者数の成果達成による部分(事業費の60%)が支払われ、観察期間を経て平成31年度にステージ進行/人工透析移行予防部分の成果に応じて支払い額が決定される(事業費の30%を上限)。

パネルディスカッション

「日本におけるSIB導入に向けた意義・課題と取り組み」

 本報告会の最後には、SIBの各ステークホルダーとなりうる立場の各氏が登壇し、パネルディスカッションが行われた。モデレーターおよびパネリストは以下の通りである。
 

(モデレーター)

  • 石田 直美氏/株式会社日本総合研究所コミュニティインフラデザイングループ部長

(パネリスト)

  • 有馬 充美氏/株式会社みずほ銀行執行役員
  • 岩本 圭司氏/株式会社三井住友銀行ファイナンシャル・ソリューション営業部長
  • 小松 真実氏/ミュージックセキュリティーズ株式会社代表取締役
  • 幸地 正樹氏/ケイスリー株式会社代表取締役
  • 藤田 滋氏 /公益財団法人日本財団社会的投資推進室
  • 植木 貴之氏/経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課課長補佐

 最も興味深かった点は、議論・質疑を通していずれの資金提供者もSIBに大きな関心を寄せていることである。大手金融機関2社とクラウドファンディングプラットフォーム運営会社がそれぞれ違った観点からも、経済的リターンと社会的リターンの両立を求めてSIBへの参画を検討している。

 ディスカッションには資金提供者の立場として有馬氏、岩本氏、小松氏、実際に案件組成の経験のある中間支援組織の立場として、幸地氏、藤田氏、行政の立場として、また本事業主催者側として植木氏が登壇した。

 

 以下はパネルディスカッションおよび質疑応答の内容から、それぞれ要点をまとめたメモである。

各関係者への多様な意義

■資金提供者

  • 個人的な興味から始まってはいるが、私的な勉強会を超え、プロジェクトチームとして他部署を巻き込んで組織として取り組み始めた。全国に支店も多くあるので、基礎自治体とも連携して事業に参画していきたい。社会的・財務的便益の創出を共に目指していく。(有馬氏:自己紹介より)
  • 本業では新規事業に対して金融面のサポートを実施している。介護分野や農業の案件等も扱う中で、日本再興戦略等を参考に社会課題を重要視している。SIBでの官民連携事業は、経済性だけではなく、持続可能性を求める中で本業ともシナジーが高い。CSRではなくビジネスとして持続性を担保しながら社会的課題にどのようにアプローチしていくべきかを考えていく。(岩本氏:自己紹介より)
  • 本業として、東日本大震災被災の復興ファンド組成や、マイクロファイナンスのファンド組成を実施してきた。これらのファンドに投資してきた約3万人の個人投資家は、SIBの資金提供者候補になり得ると考えている。個人投資家は財務的リターンだけではなく、社会的リターンを期待している部分も多いと感じる。当社のSIBへの期待としては、ソーシャルビジネスや非営利事業の領域に事業性を求められることでもある。(小松氏:自己紹介より)

■行政

  • SIBは行政にとって3つの大きな意義がある。1つは成果の可視化、2つは成果に応じての支払い、及び3つは民間資金の巻き込みである。特に重要なのは、成果の可視化だと感じている。便益シミュレーションの際、自治体側も成果を見える化できることに価値を感じていた。(幸地氏)
  • 自治体にとっての意義は部署によって異なる。財政の健全化は財務関連部署にとっては意義となるが、実際に事業を行う現場にとっては、財政の健全化よりもいかに市民の生活を向上させるかがより重要であり、成果の可視化が重要な意義となる。(藤田氏)

■民間事業者

  • SIBを通して中小企業の成長にもつながると感じる。B市の案件組成の過程で、通常の業務委託へと変更しそうな状況があったが、民間事業者側のSIBへの強い意向があった。当該民間事業者は保健指導サービスの質を担保すべく人材への投資を惜しんでいないが、他事業者に比べ価格が高くならざるを得ず、品質で勝っていても価格が安い別な事業者に競り負けることもある。SIBを活用すればサービスの質が可視化されるため、こうした付加価値の高いサービスを提供しようとしている中小企業の成長にもつながると感じている。(藤田氏)
  • SIBは中小企業等にとって官民連携を通じ、大きな発展につながるスキームだと感じる。本業で支援している部分とも重なる。(岩本氏)

案件組成・設計(成果指標設計・契約等)における課題と取組

■エビデンスの不足と成果指標に関する合意形成

  • 支払いの条件設定、アウトカム指標設定に関しては、データがない中、シミュレーション結果で関係者と合意形成を行うことが非常に難しいと感じる。データの信頼性の確認も難しい。A市の場合はリアルデータ(レセプトデータ)を活用していくことで合意形成を図った。(幸地氏)
  • エビデンスをA市のレセプトデータという検証可能なリアルなデータとし、さらに分析結果のうちワーストケースにこだわったことを強調したい。(A市職員:会場よりコメント)
  • 事業のもたらす長期的な成果については、仮定が多くなれば因果関係の立証は困難を伴う。仮に超長期的な成果と、短期的なアウトカムの因果関係を立証できるのであれば検討の余地がある(藤田氏:質疑2を受けて)
  • クラウドファンディングのプラットフォームを運営する側としては、成果指標そのものの適切性は行政や評価機関に委ねていきたいと考えている。(小松氏)

■測定方法の厳密性(質疑1を受けて)

  • 評価方法は悩みの多かった部分であり、介入群・対照群の設置や、無作為抽出を行うRCT等、厳密な手法もある。一方で行政サービスは倫理的観点から設計が困難で厳密性は妥協する必要があり、結果として対象群を過去のデータに求める手法を用いている。また、厳密だが複雑な評価方法では、ステークホルダー間での合意形成が困難になるデメリットがある。税金を使う以上一定の厳密性が当然求められるが、その程度はステークホルダー間のコミュニケーションを通して決めてゆくべきだ。(藤田氏)
  • あくまでファイナンススキームなので、各関係者の納得できる成果指標を設計することが重要。評価(特に医療分野)の話になると、評価の厳密性を重要視しがちだが、関係者間で合意形成をしていくことが重要である。(植木氏)

■複数の関係者間での成果連動型支払契約

  • SIBの契約は自治体でも前例がなく、再委託の一括禁止など、SIBのスキームを構築する上で既存の規定がボトルネックになる場合もある。一方で、一度モデルができればテンプレート化して展開可能と思われるので、今後実施する自治体に関してはハードルが下がると想定される。(藤田氏)

資金提供者を巻き込むための課題と取組

■プロジェクトの質の担保とリスク・リターンの配分

  • ストラクチャードファイナンスの要素を持つSIBにおいては、関係者の利害をいかに調整できるか、ということSIBでは重要であり、プロジェクトの信頼性を高めていく必要があると考えている。(岩本氏)
  • 現状課題と感じている点は、リスク・リターンの設計である。従来は既存スキーム(融資や債券等)と比較してリスク判断を行うが、SIBは新規の仕組みであり、財務的・社会的リターンに関してどのような水準で判断し投資すべきか前例がない。そのため、自分たちで検討を重ねている段階である。(有馬氏)
  • リスク・リターンの設計はやはり重要な点である。SIBの場合は多様な関係者が関わり設計を行うので、中心にいる人・組織の存在が重要だと感じている。特にあらゆる関係者をつなぐ役割である中間支援組織をどんな人・組織が担うかが重要だと考える。また、組成段階にとどまらず、案件が始まった後も自らプロジェクト全体を推進・先導する存在が鍵となる。ここでも中間支援組織の存在が重要であり、自治体も単なる受益者として参画するのではなく、推進主体の一員としての自覚の必要がある。金融機関がリスクを取るのは一足飛びにはいかないが、資金提供者の種類によってはリスクを取れる資金提供者もいるはずなので、多様な資金提供者で優先劣後のストラクチャーを検討していくことも金融機関としての役割だと感じている。(岩本氏)
  • プロジェクトのリスクを下げるためにも、中間支援組織が案件組成の中で事業計画をしっかり検討する必要がある。

    B市の案件組成においては、リスク評価を含め金融機関がプロジェクトを評価することで新しい視点が入り、よりよい事業計画につながったと感じている。各関係者からの異なる視点を取り入れることがプロジェクトの信頼性を高めることにつながると思う。(藤田氏)

  • クラウドファンディングのプラットフォームとしては、SIBを仕組みとしてだけではなく、新しい金融商品としてとらえている。重要なのは事業計画の確からしさである。革新的なスタートアップ企業が自治体と官民連携で事業を実施することは大きなチャンスとなるが、アウトカムやインパクトの測定だけではなく、組織としての体制を十分に確認することが重要である。十分な数のサービス提供が可能な体制かどうか等、デューデリジェンスを実施して確認する必要がある。プロジェクトとして中小企業等民間事業者の支援をしていくことが重要である。(小松氏)
  • 例えば超長期的なプロジェクトであったとしても、法的な説明が適切に行えれば設計可能だと考える。一方、長期すぎると不確定要素も多く、ストラクチャードファイナンスの中で事業者にどのようにガバナンスを効かせるかの設計の工夫は必要だと考える。成果向上のインセンティブを働かせることが重要になる。感覚的には10年は難しく、3年程度が妥当ではないかと感じる。(有馬氏:質疑2を受けて)
  • リスクは最終的にはキャッシュフローがどう流れるかで判断している。コーポレートファイナンスでは7年くらいが最長という感覚はあるが、ストラクチャードファイナンス、プロジェクトファイナンスの場合、15年~20年のリスクを取れる場合もあるので、超長期的プロジェクトの調整は不可能ではない。事業計画によっては10年、またはそれ以上という可能性があるのかもしれない。(岩本氏:質疑2を受けて)

■プロジェクトとしてのコストと規模の拡大

  • 今後、資金提供者を巻き込む上で課題となるのは規模の部分があると思う。現在はテストマーケティング的に実施することもあり規模の大小は気にしていないが、規模が大きくなり中間コストが下がれば関係者からの関心も高くなるのではないか。(有馬氏)
  • 設計に手間・コストがかかるSIBは、ある程度規模がなければ便益を関係者でシェアすることができない。立ち上げ期はコストを持ち出して実施する組織もあるが、中小企業等の大きな発展にもつながることもあり、今後は規模を大きくしながら実施していくことが重要だと感じる。(岩本氏)
  • 大手金融機関では担えない部分で、クラウドファンディングのプラットフォームとしてできる役割は、小規模案件への資金提供である。社会的投資に興味のある個人投資家を既に一定数抱えているため、資金提供者として関与できる。(小松氏)
  • 規模拡大には大まかに広域連携モデルと県+市町村モデルの2つの方法がある。県+市町村モデルで具体的に検討を進めている案件もあり、うまく中間コストを低減することで更なる規模拡大も可能であると考える。(幸地氏)
  • 経済産業省としても認知度を広めていく等サポートが必要だと思っている。経済産業省で検討会等を実施している金融サービスとIT技術を結び付けるフィンテックの動きは、金融におけるコスト削減を期待できるツールと認識しており、SIBと組み合わせることによる効果を期待したい。(植木氏)

その他SIB推進における課題と取組

■政府の動きについて

  • 経済産業省としては、案件組成に関して幸地氏・藤田氏らと共に自治体の支援をしてきた。来年度以降も継続してSIBの拡大を支援していく予定である。行政全体の動きとしては、自治体がきちんと予算化することが重要となる。一方で、国の削減効果部分も含めなければ便益創出が困難な領域もあり、その領域のSIB組成には時間がかかる。実際に医療保険や介護保険を根本から変えるには5年から10年かかると想定されるため、今使っている資金を変えるところから始める方向で考えている。今後は、その他省庁とも連携していきたい。(植木氏:質疑3を受けて)
  • 現状は各案件を積み上げている最中だが、最終的にはSIBは政府としても法的整備が必要かどうかも含めて議論が必要な部分である。(植木氏:質疑5を受けて)
  • 政府を動かす方がインパクトが大きくなるためアプローチを続けているが、時間を要するため、並行して意欲のある自治体と地道に実績を積み上げているところである。(幸地氏:質疑5を受けて)

■民間事業者からの視点(質疑6を受けて)

  • 民間事業者がSIB組成を検討する場合、まずはサービスの成果に関してある程度エビデンスを持っていることが重要である。その次に、自治体へのアプローチを中間支援組織・資金提供者等と連携して進めていくこと、また、自ら推進していく力も必要である。(幸地氏)

質疑・その他コメント一覧(順不同)

  1. 外的要因が存在する中、民間事業者のサービスの成果をどのように立証するのか。対象群を設定しなくても立証できるのか。また、それらのデータを自治体が承認するのか。
  2. 3年~4年ではなく、例えば10年を超えるような超長期の成果を設計することは、SIBとして成立しうるのか。
  3. 各自治体の職員が案件形成や管理を行わなければならず知識・人材が必要になる中で、政府の後押しが必要なのではないかと感じる。経済産業省としてどのような施策があるのか。また、政府レベルでの財政削減効果が起きる場合、自治体が経費を支払えない場合も想定される中、政府としての関わりをどのように考えているのか。
  4. マイクロファイナンスもプロジェクトの成果に着目することから始まった背景がある。SIBもプロジェクトの成果とプロジェクトファイナンスのリスク・リターンは分けて考える方がよいのではないか。SIBでしかファイナンスできないものを考えると、かなり少ないのではないかという印象を受ける。不確実性が大きいものにSIBを活用する意味があるのではないか。
  5. 自治体のへの改善ツール・公共サービス改革としてはPFIのような事例と同様、自治体は設計や手続きの部分に関してある程度固まったツールを求めるのではないか。内閣府の社会的インパクト評価等の動きもある中で、他省庁を含めた関連の動きはあるのか。
  6. 民間事業者がSIBを自治体に提案したい場合、どのように進めるとよいのか。

プロジェクトとして社会課題解決を行うための契約(編集後記)

 本報告会を通して改めて整理をすると、SIBは「民間資金を活用した官民連携の成果連動型支払」という形式上の説明では不足ではないかと感じる。SIBは、最も効果的・効率的な社会課題解決に向けて、行政、民間事業者、資金提供者、また中間支援組織が互いの責務を果たしつつ実行するプロジェクトの契約形態とも言える。ヘルスケア産業領域に限らず、複雑化し財政負担が逼迫する社会課題が数多く存在する中、社会課題に対して、人がいない、もの(事業)がない、資金がない、を理由に解決に向かわない状況がある。SIBを活用することで、成果を可視化し、エビデンスを用いて成果目標の共有と各関係者間のファイナンス設計を可能にすることで、質と規模の両立を図り、各関係者の強み・弱みを補完し合い、社会課題解決により強く・早くコミットするプロジェクトを成立させることができる。結果として異なるセクターを超えたプロジェクトの形態となる。よって、パネルディスカッションでも述べられていたように、各関係者のコミットメントが重要であり、それを促す成果指標設計、リスク・リターンの配分等の設計もまた重要である。

 

 パネルディスカッションの最後に、経済産業省植木氏から以下のようなコメントがあった。「本報告会は50名程度を想定していたが、150名を超える参加者が来場し、動きは活性化していると感じる。行政も金融機関も事業者も協力し合って進めていくことが重要である。広域展開に関してなど まだ課題が残る部分もあるが、経済産業省としても引き続き検討していきたい」。また冒頭でも、江崎氏から「SIBとは社会にインパクトを与えるお金の仕組みである」が「魔法の杖ではない」という言葉があった。パッケージとして当てはめれば社会課題が解決する、新たに補助金が降ってくる、というようなツールではないのである。平成27年度に続き経済産業省事業として検討してきたSIBに関する事業が、多くの関係者との検討を通して成長し、進化(深化)してきたことを感じさせられる言葉であった。報告されたA市、B市のそれぞれの案件についても、自治体、民間事業者、資金提供者、中間支援組織および経済産業省のそれぞれのSIBに対する前向きなコミットメントが発言の中から読み取れた。現段階では日本初の本格的SIBの導入段階であり、残される課題もあるが、報告会で感じた堅実ながら前向きで積極的な雰囲気に突き動かされ、自ら検討に動く関係者(自治体・民間事業者・中間支援組織等)も多いのではないかと感じる。今後、まさに「社会にインパクトを与えるファイナンス/プロジェクトのスキーム」として、SIBが広く活用されていくことを期待する。
  

(文・写真:ケイスリー株式会社 落合千華)

 

【本件に関するお問い合わせ先】

会社名:ケイスリー株式会社

担当者:幸地正樹

連絡先メールアドレス:info@k-three.org

【以下、報告会で配付された資料です。ご自由にダウンロードください】

 ※【配付資料一式】は、配付資料1~8をまとめて圧縮したものです

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